知っていきたいデジタルリテラシー【講演を学ぶ-3】

― 若宮さんから私たちへ ―


第59回「北海道消費者大会」~第3章


 2022年 9月 9日(札幌)一社 北海道消費者協会 主催

デジタルクリエーター・ICTエバンジェリスト【若宮 正子 氏】

  • 誰ひとり取り残さない、ひとに優しいデジタル改革をめざして


《基調講演》~第3章の概要.


ここではエストニアのシニアが使う「デジタル機器」や若宮さんの「パソコン」への思い、そして日本との「マイナンバーカード」の違いと、適切な「情報管理」の仕方などを示唆されます。

 

また現地で開催した「ワークショップ」やタリン大学で目にされたという「人生100年時代」ダイバーシティ(多様性)即応の「教育」についても語られています。


手厚いサービスが「パソコン教室」の良い先生?


若宮さんは「IT知識を誰に教わったか?」も調べています。日本は「パソコン教室」などが充実していますが、エストニアは《家族から教わる》ことが多く、最多は《独学》だったそうです。

 

日本はそうした教室のサービスも手厚く「同じ質問を3回してもニコニコ親切に教える先生」が《良い先生》とも。ただ「そのたびに操作手順を教わると、なかなか頭の中がバージョンアップできない」と若宮さんは言います。

 

加えて《問題》とおっしゃるのは「そもそも、なぜこういう間違いが起こったのか」という「どうして」を教えないで「ほら、ここをクリックしなきゃだめですよ」みたいな教え方をしていること。「そのへんも問題がある」と言われます。


シニアが使用する「デジタル機器」とは?


若宮さんが実施したアンケート結果
若宮さんが実施したアンケート結果

若宮さんは、「最近の日本は、若い人でもパソコンを持たない人が非常に多く、シニアでもパソコンを持たず、スマホを持つ人が多い」と指摘されます。

 

一方、エストニアは「何も持たない人」もいるものの、大抵の人は「パソコン」を使用、「電子政府を使うにはパソコンは必要」と若宮さんは言われます。現地のシニアが使うデバイス順位は、以下のとおりでした。 

 

● 1位 パソコン 79%、● 2位 スマホ 59%、● 3位 ガラケー 42%、● 4位 タブレット 27%


情報の消費者でなく「生産者」になる


使用するデバイスが「パソコンであるか、スマホであるか、ということは随分違うと思う」と若宮さんは言われます。「デバイスは何か?」は日本ではあまり考えない、とも。

 

米国のオバマ元大統領は、子供たちに「頼むから君たちは情報の消費者じゃなく情報の生産者になってほしい」と言われたそうです。

 

アプリの制作やYouTubeの発信もそうですが、「情報の提供側に回って欲しい、そのためにはパソコンが必要」。スマホは《モバイル》なので情報の《消費者》になりがちで(もちろんスマホでも対応は可能ですが)効率などを考慮すると「やはりパソコンがいいのかな」と。


エストニアの「マイナンバーカード」とは


「国とはデータ」というエストニアの発想
「国とはデータ」というエストニアの発想

日本人もエストニアの「マイナンバーカード」を持つことができます。その背景には、この国ならではの発想が。それは《国とは領土ではなくデータである》ことだそうです。

  1. 「e-Residency制度」による《仮想市民》
  2. 「データ大使館構想」

1.)日本人でもエストニアのマイナンバーカードを持てるというもので、若宮さんも持たれたそうです。2.)ルクセンブルクのエストニア大使館に《国民データ》を預け、海外からの攻撃への備えをはじめ、自然災害などへの対策を考えられたものと言われます。 


エストニアの「仮想市民」になる!


エストニアの仮想市民カード
エストニアの仮想市民カード

エストニアの仮想市民への手続きは簡単で、パスポートとクレジットカードがあれば15分位で完了、けれど受け取りはけっこう大変だったと言われます。

 

指紋も10本指で取り、写真も高感度カメラのような装置で、しっかり《本人確認》している印象で、このカードを持つと「国の内側から電子政府を眺めることが出来る」と、持つことを決めたそうです。

 

本人確認後は(パソコンに差し込むとそのままUSBに接続できる)カードリーダーのようなものも一緒に下さり、そう難しくはなかったとのこと。日本はカード機能を「スマホ」に搭載予定のためか(パソコンで使うための)カードリーダーの配布は無いようです。


日本とエストニアの「マイナンバーカード」の違い


《仮想国民を増やす》という発想
《仮想国民を増やす》という発想

若宮さんが驚いたことに日本とエストニアの《マイナンバーカード》の違いがあるそうです。「日本のカードは自分の番号を見せちゃいけないとか、すごく厳重ですけれどエストニアの場合は違います」と。

 

エストニアはカード表面に《氏名・性別・生年月日》が印字され「もし落として誰かが拾ったら誰のカードがすぐ分かる。そんなものです。このカードの番号をそんなに大事にすることはないみたいな気がします」と若宮さんはおっしゃいます。

 

また、現地でカードを申し込むときに「面白い」と思ったことは、カードを作る理由に「もっともらしい理屈がなくても、だいたいやってもらえること」。例えば、単なる《エストニアのファン》でも正当な申請理由になるそうで、これもまた日本との大きな違いの一つかもしれません。


エストニアの「電子居住者」になるメリットとは


ポータルサイトの《健康保険》の画面
ポータルサイトの《健康保険》の画面

エストニアの「e-Residency」(電子居住者)になるメリットは幾つかあり、どんなサービスが受けられるかは「ポータルサイト」の画面で見られるそうです。

 

例えば「健康保険」の画面で見られるのは《名前・保険証・健康保険番号・かかりつけ医TEL》そして《個人保険》も。個人保険とは「医療保険・がん保険」などの個人の加入保険のことで、現地政府の言う「官民の壁を取り払った」(使いやすさ)を若宮さんは感じたそうです。

 

また電子健康情報(e-health)は《診断結果・通院記録・治療内容・検査結果》(X線等の画僧情報も)など個人のさまざまな健康情報が掲載されていると言います。(日本でも一部は順次マイナポータルで見られるようになるそうです)


適切な「情報管理の仕方」を考える


「日本には世界に誇れる健康保険制度があるが、健康情報の管理が統一されていない」と若宮さんは言われます。「検査結果」はそれぞれの医療機関が保管。上図のように「紹介状」などは封書で糊付け、など《自分の情報》を見られない点も挙げられています。

 

「だからこそ本人が情報を把握管理しなくては、私たちの情報は私たちのものです」とも言われます。上図のとおり自分の情報をいかに《取得・管理》して《気密性》を維持し、必要な際に提供する「適切な情報管理の仕方」を考える発想が非常に少ないと感じているそうです。

 

エストニアのポータルサイトに掲載される「個人情報」は、サイト内の《データトラッカー》と言う仕組みで自分のマイナンバーカードの番号を「誰が見たかが分かる」とのこと。万が一、自分に思い当たる節がなかった場合、役所に申し出れば調べてもらうことができるそうです。


エストニアで「ワークショップ」を開催


若宮さんは現地の人々と触れ合うため「シニアと孫世代」を対象に《Excel Art》のワークショップを開催されています。

 

参加された方は「あまりインストラクターの手を煩わせたり、世話を焼かせるような人は多くなかった」そうです。

 

ワークショップのために現地のMicrosoftからWindowsのパソコンを30台借りたところ応募者数が多かったため、2回に分けての開催になったとか。また日本だと先生の《見本》を真似てしまうところ「エストニアの人たちは自分の色使いや発想で作るのがすごい」と感じたそうです。


「ダイバーシティ」に即応した教育とは?


卒業式には《子連れの卒業生》の姿も
卒業式には《子連れの卒業生》の姿も

タリン大学工学部の卒業式にも出席。ここでは「ダイバーシティに即応した教育が実施されている」と若宮さんは言われます。ダイバーシティは「多様性」などを意味します。

  • 工学部でも《女性が70%》
  • 男女とも《子連れ》が多い
  • 卒業生の《高齢化》

このように《年齢・性別・国籍や人種》などさまざまな属性の人々が集まるエストニアでの学びを、まさに「エストニア人生100年時代」と若宮さんはおっしゃいます。



《若宮さんについて》

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若宮正子さん(メッセージ・履歴)

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