知っていきたいデジタルリテラシー【テクノロジー】

―「DX」研究会 学習会 ―


「ぬか床」と「麹」と新しい技術の出会い


  • 《講師》俵屋 年彦 氏(たわらや・としひこ)
  • ボランティア団体  VRアートを楽しむ会・創設者
  • アートとテクノロジーの民主化を促進する TAWA LAB 運営
  • コミュニティFM三角山放送局で25年間パーソナリティーを継続中
  • NPO法人 さっぽろ自由学校「遊」で理事と講師

最近よく聞く「テクノロジー」とは


デジタルと共に「DX」研究会:2月学習会資料

テクノロジーとは「科学技術」のことを言います。一般的には《科学的な知識》を実用化して作り出された《道具やシステム全般》といった《人が扱う技術全般》を指すと言われ、それらを利用して私たちは物事の生産性を高め、効率化を図ります。

 

私たちの生活を豊かにするテクノロジーは進化します。近年《ICT》を中心とした発達が急速化し最近の《AI》の驚異的な発展から見ても、最先端のテクノロジーは私たちの生活だけでなく《社会や価値観》をも変える可能性を持つと言えます。詳しくは学習会「デジタル化で変わる社会」


日本の伝統的な「食文化」をさらに豊かに


デジタルと共に「DX」研究会:2月学習会資料

新しいテクノロジーで日本の伝統的な食文化をさらに豊かにする温かな取り組みも行われています。多様な微生物と緊密に共生する私たちの身体を見直すとともに、地球環境の改善にもつながっていきます。

 

一部のテクノロジー推進派は人間を含めて生き物は精密な機械だと捉えています。しかし生物学者の福岡伸一さんは、それに異議を唱えています。生命は緩く作って部分的に壊しながら作り替えていく、動きを止めず新陳代謝を重ねながらバランスを保つ戦略をとっているという見方をしています。これが「動的平衡論」です。


デジタルと共に「DX」研究会:2月学習会資料

「世界の認識方法として機械論的な見方と動的平衡的な見方があり、私は後者をとる。機械論的な見方は世界を、停止させてメカニズムや因果関係を解析する。しかし世界は絶えず移ろい変化してゆくものなので時間を止めると見えなくなることがある。世界は絶え間なく動いている」(「動的平衡 2」)

 

絶えず変化していく動的平衡の動きでは微生物との複雑で緊密な関係がとても重要です。体内での関係と共に私たちは発酵という形で微生物の力を借りて生活してきました。湿度の高い風土である日本は、とりわけ発酵を活用して豊かな食文化を築いてきました。

 

熟成しているぬか床には、50種類から100種類の菌がいて緊密なつながりを持ちながら変化しています。多様な発酵菌の集合である「ぬか床」の菌は常に分解と合成を繰り返してバランスを保っている、動的平衡の象徴でもあります。


「NukaBot」(ヌカボット)


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2019年6月9日開催のNukaBot 御披露目会案内より https://fermentationtourismnippon-nukabot.peatix.com/?lang=ja

早稲田大学准教授・情報学研究者で起業家でもあるドミニク・チェンさんが進めている「ぬか床」をロボット化し人とコミュニケーションをとれるようにするプロジェクトが、「NukaBot」(ヌカボット)です。

 

ドミニク・チェンさんは、きっかけについて、こう話しています。「新しく会社を立ち上げたのですが創業の日『君にこれを託そう』と、共同創業者に手渡されたのがタッパーに入った100gほどのぬか床でした。彼の家に伝わる50年物のぬか床。すごくうれしく思ったのと同時に、大きなメッセージを感じて身の引き締まる思いでもありました」

 

そしてある日ふと「ぬか床が自分で動き回り、発酵しやすい場所に移動したらどうだろう?」と、

思いつき、そのアイデアを発酵デザイナー小倉ヒラクさんに話したことから、ぬか床ロボット「Nuka Bot」の構想が進み始めます。

 

おいしいぬか漬けができるぬか床とは、多様な微生物がどのように存在する状態なのか。その状態に必要な条件についての調査を始めます。ぬか床が発酵する過程での、乳酸菌などさまざまな菌や酵母などの働き、pHなどについて仮説を立てることができました。


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これまでは、ぬか漬けのかき混ぜるタイミングや頻度などは、個々人の感覚に頼るところが大きかったです。NukaBotは、糖分やpH、乳酸菌などを測定するセンサーとスピーカーを内蔵して発酵具合を調べ、手入れの催促をしてくれます。

 

「NukaBot」は将来的にオープンソース化することを目指しています。ぬか漬けという日本を代表する伝統食を通して自然の複雑なシステムと人が対話する機会を生みだします。期待しましょう。

  

NukaBotはロボットアームが自動でかき混ぜる仕組みを作るのではなく、NukaBotが呼び掛けて、人間がそれに応えてぬかに手を突っ込んでかき混ぜるからこそ意味があります。人間の手の菌も混ざることで変化します。目的はぬか床の腐敗防止ではなく人間と菌の接触をサポートすること。

 

「微生物への愛着を醸成するためにテクノロジーがどう関わるか」「どうしたら、微生物たちの気配や存在を感じながら生活できるか」という観点が、とても大切です。



「菌肉」プロジェクト


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畜産を伴わない「代替肉」の開発は世界で急速に進んでいますが背景にあるのが《地球温暖化》です。例えば牛肉。牛1頭あたりゲップなどで出る温室効果ガスの量は二酸化炭素に換算し年間およそ2.8t。日本全国の畜産牛を合わせると1000万tを超えます。

 

筑波大学生命環境系で糸状菌生物学を専門とする萩原大祐准教授が2021年末にスタートした「麹ラボ」では、麹菌そのものを「肉」として食用化するプロジェクトが始まっています。

 

麹菌(ニホンコウジカビ)はカビの一種で食べ物を腐敗させるカビではなく、毒素や嫌な匂いを出さない世界でも珍しい日本にしかいないカビです。

 

麹菌は米に付いて増殖したものを米麹、麦に付けば麦麹、豆に付けば豆麹となり、酵素のチカラで栄養を増やしたり旨味や甘味を増やして発酵食品を作ります。米のでんぷんを分解してブドウ糖にするアミラーゼ、大豆や肉のたんぱく質を分解してアミノ酸にするプロテアーゼ、脂肪を分解するリパーゼという酵素は効率よく働きます。


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「菌肉」はキノコとは別物。菌の器官のひとつ、子実体であるキノコと異なり「菌肉」は糸状菌が持つ糸状の構造体「菌糸」を培養し濾過・成形したものです。この菌糸を重層的に集積することで、まるで筋繊維のような微細構造ができ従来の食肉に近い触感を生み出すことができます。

 

「菌肉」の原料として培養しているのはアスペルギルス・オリゼー。醤油や味噌、日本酒など日本の発酵食品文化の基礎をつくる重要な菌です。「麹菌」が「菌肉」の原料に最適な理由は、麹菌の安全性、馴染み深さ、麹菌に関する研究の充実度、育成の速さ、省資源で生産できる点です。

 

麹菌からつくる菌肉は5日間で成長し収量も天候に左右されないので効率的に栽培できます。成長するためのエサとして、エネルギー源に砂糖、たんぱく源に酒かすを与えます。

 

肉っぽさを出すために、ちぎって小さくし塩で味付けしてから、つなぎとして卵白少量を加えミキサーで細かくし専用の型に入れて蒸したあと油をひいたフライパンで焼くと焼き肉が完成します。



「VR」体験会


デジタルと共に「DX」研究会:2月学習会資料
俵屋年彦氏制作「縄文蟹」

今回は、《VRアートを描く》体験と俵屋年彦氏が制作した「縄文蟹」も併せて鑑賞。

 

《VR》は空間に存在するので、実際に「縄文蟹」の周りをぐるりと歩きながら鑑賞することもできます。

 

縄文蟹は《AR》でどこにでも出現可能です。(スマホ専用アプリ使用)

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同「縄文蟹」in 雪まつり会場


最近よく聞く「AR」とは


「AR」(英:Augmented reality)は《拡張現実》と訳され《景色》などの現実世界にコンピュータで《情報》を加える技術を言います。(スマホゲーム「ポケモンGO」などでも有名に)

 

デバイス画面上(ARスマートグラス・スマホ)で見ている景色などに、実際には存在しないデジタルコンテンツ(動画や画像、3Dキャラクターなど)を加えることで《現実を拡張》し《現実世界には無い》ものがまるで存在しているかのような体験が出来ます。

 

VR同様にゲームや娯楽でのイメージが先行するARですが、限られたスペースでしか情報を伝えられない媒体(ポスターなど)でスマホの専用アプリなどを利用し、宣伝動画などの追加の情報を伝える有効な手段としても用いられ、《VRアート》もそうした専用アプリを活用しています。


「学生VRアート祭」に参加


学習会後はチカホ北3条広場で開催中の《学生VRアート祭》に参加し、「VRアートを楽しむ会」学生代表の小野寺さんから展示の説明を受けるとともに小野寺さん制作の作品も体験しました。