知っていきたいデジタルリテラシー【AIとVR活用】

―「DX」研究会 学習会 ―


鎮痛とリハビリと「VR」活用


  • 《講師》俵屋 年彦 氏(たわらや・としひこ)
  • ボランティア団体  VRアートを楽しむ会・創設者
  • アートとテクノロジーの民主化を促進する TAWA LAB 運営
  • コミュニティFM三角山放送局で25年間パーソナリティーを継続中
  • NPO法人 さっぽろ自由学校「遊」で理事と講師

最近よく聞く「人工知能」とは


人工知能は「AI」とよく呼ばれますが、Artificial Intelligence(英)の略称です。例えば、翻訳や自動運転などにも使用されており、《判断》或いは《推測》などといった《人間の知能》をコンピュータによって再現する技術と言われます。

 

私たちの生活に大きな影響を与える《人工知能》には、多くの種類があると言います。前述のほか《チャットボット》や《画像認識》なども、お掃除ロボット「ルンバ」に活用される《物体認識》や、Apple社の製品に搭載される「Siri(シリ)」の《音声認識》もまた、AIです。

 

近年コンピュータ性能の大きな向上で、コンピュータ自身が学べるように。これらは「機械学習」と呼ばれ、AIの中心技術と言われます。そうした状況のなか「ChatGPT(チャットジーピーティー)」の登場により、いま私たちとAIの距離は、急速に縮まりつつあります。

  

こうした目覚ましい発展を遂げ続ける「AI」の現状と、「VR」における《医療的》側面からの効果などについて学習しました。(PowerPoint使用)


「人工知能」の現状


デジタルと共に「DX」研究会:4月学習会資料
ChatGPTのHPと紹介 https://openai.com/blog/chatgpt

20228月の初めての定例会の冒頭で、人工知能の高度な絵画制作を紹介したが、その後半年で、さまざまな分野で驚くべき能力を示し始めている。人間が理解しやすいように情報を提示できるようになったといえる。

 

20151211日、サム・アルトマン、イーロン・マスクらによってOpenAI Inc.がサンフランシスコで設立された。人類全体に利益をもたらす形で友好的なAIを普及・発展させることを目標に掲げた。人工知能の独占的な利用ではなく、オープン化、民主化を目指していた。

 

OpenAIは、202211月に大規模言語モデルというアルゴリズムを使った人工知能チャットボット「ChatGPT」を公開した。GPT-3.5を使用。現在、世界で1億人以上が利用している。ChatGPTは会話内での利用者による過去の入力を記憶しているので、個人に最適化されたセラピストとして使える可能性がある。

 

2023314GPT-4のリリースを発表。テキストに加え、画像での入力にも対応した。OpenAIは、GPT-4に司法試験の模擬テストを受けさせたが、人間の受験者と比べて上位10%程度のスコアで合格したと発表した。

 

2023328日、イーロン・マスク、スティーブ・ウォズニアックなどの著名人や専門家が署名した公開書簡が発表され、「人間に匹敵する知能を持つAIシステムは、社会と人類への甚大なリスクになり得る」と指摘。

 

最新の大規模言語モデルであるGPT-4より強力なAIの訓練を少なくとも6か月停止するように要請した。GPT-5の開発は中断されている。ただ、GPT-4と他のソフトとの連携模索は続いている。


現時点での私(講師)の「留意点」


デジタルと共に「DX」研究会:4月学習会資料イメージ

【1】人工知能の民主化を目指して設立されたOpenAIが、独占的なGoogleに先駆け幅広い実用に耐える人工知能サービス「ChatGPT」を無料で一般公開した意義は大きい。ただ、OpenAIも設立当初とは異なり、営利モデルに変わりつつある。マイクロソフトとの親密な関係も気掛かり。

 

【2】今後は、複数の人工知能サービスが競い合うことになる。《アルゴリズム》と《提供するデータ》によって人工知能サービスは多様な個性を持つ。使用を続けていると、対応した個々人の入力によって返答が異なってくる。「複数」の人工知能サービスを活用することが大切。

 

【3】入力によってテキストだけではなく、アプリや音楽、映像なども制作するようになっていくが、今の所の起点は「文字情報」にある。アート部門も文字入力から始められる。私たちの世界は《言語化されない情報》に満ちているので、その点についての自覚が必要になる。

 

【4】人工知能は有能な秘書や助手というよりも、「友人」になっていく。「複数の友達」を持つことが必要。この友達は人間同士の交流を促進してくれるだけでなく、動物、植物、菌類、微生物とのコミュニケーションを助けてくれるようになるだろう。知能、意識とは何かを問いただすことにもつながる。


「痛み」に飲む薬「オピオイド」とは?


人は加齢と共に、何かしら身体的な痛みを持つことがあります。特に慢性的な痛みは辛いもの。そうした長期の痛みから、次第に神経回路が変化し《痛みの感受性》が高まることがあると言います。

 

そうした場合、神経の働きを抑える薬などが使用されるところ、脳に元から備わる仕組みを活用し痛みを抑える《運動療法》は、体を動かすことで脳内物質である《ドパミン》が放出され、次に「神経の働きを抑制」する《オピオイド》が放出されると言います。

 

このオピオイドが放出されると、さらに痛みを抑える物質が出現するという連鎖で《痛みを抑える神経回路》が活性化します。こうした仕組みの鍵となるオピオイドは、体内に存在する以外にも、一部の麻薬を含む《鎮痛剤》としての存在があります。

 

とくに強オピオイドは、《手術やがん》のような強い痛みに不可欠なものの「医療用麻薬」であることから、依存性が危険視され、運動療法も痛みが強ければ運動自体が困難です。私たちは、辛い痛みを抑えるには、最終的に危険性のある薬を使うしか、術はないのでしょうか?


鎮痛剤と「VR」の関係


デジタルと共に「DX」研究会:4月学習会資料

VRは脳をどう変えるか?仮想現実の心理学」(ジェレミー・ベイレンソン著)201888日刊行

 

VRは幅広い分野で活用されているが、この本によって「鎮痛対策」としてのVR活用を知った。《オピオイド》鎮痛薬のアメリカでの乱用は大きな社会問題になったが、日本ではオピオイドはあまり使われていない。

 

アメリカでは、オピオイド乱用と過剰摂取が大きな問題となっている。毎日130人がオピオイド過剰摂取で死亡している。当初、オピオイド鎮痛薬は、特別な場合(がん性疼痛等)に限定的に処方されていたが、製薬企業がキャンペーンで、効果が高く依存性はないと宣伝し、爆発的に普及した。

 

慢性痛の緩和のためオピオイド鎮痛薬が処方されるという状況が過去数十年にわたり続いている。しかし持続する痛みに対する効果はそれほど高くないことが判明し、強い依存性を持つことが分かってきた。


疼痛緩和に「VR」を


デジタルと共に「DX」研究会:4月学習会資料イメージ

ペイン・コンサルタントのジョネス氏は、ファーストハンド・テクノロジー社のサイトに注目した。同社は、初めて疼痛緩和にVRを用いたワシントン大学のチーム(重症熱傷患者の疼痛緩和にSnowWorldというVRを導入し、2000年のPain誌で発表)に参加していたHoward Rose氏等が創業した企業。

 

2016年に臨床研究結果を発表。VR中はVR前と比べ《66%》痛みが軽減、VR後は《33%》軽減という結果。最高容量のモルヒネによる疼痛軽減効果は《30%》大きな効果が実証されている。

 

臨床試験では、VR後の《疼痛軽減》効果が2~48時間持続するという事実も確認した。VRが疼痛緩和ホルモンであるエンドルフィンを放出する引き金になるのではないか、という仮説が出されている。患者が長期にわたって疼痛に対処するスキルを、VRで身に着けられる可能性もある。

  

「患者本人が痛みに対し自分で働きかけることができる」VRと、「飲んで効果が出るのをただ待っているしかない」鎮痛薬との違いは、大きい。


幻肢痛と「VR」


デジタルと共に「DX」研究会:4月学習会資料
幻肢痛VR遠隔セラピー 紹介動画 - YouTube https://www.youtube.com/watch?v=J08Yk5TdGoI

私は、青年期から痛みについて関心を持ってきた。特に存在しない手足が激しく痛むという「幻肢痛」は、痛みとは何かという問題を考える大きなきっかけになると、考えてきた。

 

四肢を切断した人や神経を損傷した人の5-8割が幻肢痛に苦しんでいる。病気ととらえられていないので、治療法の研究が進んでいない。痛みのコントロールができないので、社会復帰が阻まれているのが現状だ。

  

KIDS代表の猪俣一則氏は、17歳で右上肢機能を全廃したがデジタル技術を活かし、建築・土木・自動車のデザインに従事。絶え間なく襲う痛みを医師は「後遺症」と診断した。怪我後20年目に「幻肢痛」を知る。2015年から、上肢障害者のQOL向上を目的に活動をスタートした。

 

猪俣一則氏は、2019年夏、VRの遠隔コミュニケーションを研究していた電通国際情報サービス(ISID)のオープンイノベーションラボ(イノラボ)に所属する岡田敦氏と出会い「幻肢痛VR遠隔セラピーシステム」を開発。2021年度にはグッドデザイン賞を受賞した。

幻肢痛VR遠隔セラピー 紹介動画 - YouTube


リハビリと「VR」


デジタルと共に「DX」研究会:4月学習会資料
「脳再プログラミング療法で激変する神経内科・脳外科医の役割」(2023/02/07)Youtube動画 原正彦(株式会社mediVR 代表取締役社長/医師)https://www.youtube.com/watch?v=3LP8ZhwGcYg

【mediVRカグラ】mediVR社は大阪大学発ベンチャーとして、仮想現実(VR)技術を応用したリハビリ用医療機器mediVRカグラを開発し、2019年より販売を開始。座位で実施することで安全にリハビリできる。「VR酔い」は殆ど生じない。

 

カグラは既存のVRリハビリ機器と大きく異なり、利用者の能力に応じた柔軟な課題や負荷設定によって、ゲーム性を有しながらも3次元空間での身体座標を意識させた神経科学に基づく訓練が可能となっている。

 

カグラは脳の記憶を無意識下で書き換える「脳の再プログラミング」と表現されるような全く新しい発想に基づき開発を行っている。

 

202332日に経済産業省近畿経済産業局が、グランフロント大阪 ナレッジシアターで開催した「2025年大阪・関西万博&拡張万博 未来体感フォーラム」でも超分野XR等、未来体感コーナー【医療・健康分野】で、(株)mediVR『諦めた未来を取り戻すVRリハビリ医療機器「神楽」』が出展された。

経産省近畿経済産業局「2025年大阪・関西万博&拡張万博 未来体感フォーラム」


mediVR 代表の原氏は積極的にプレゼンテーションを行い、講演などの情報の公開も行っている。

  • 「脳再プログラミング療法で激変する神経内科・脳外科医の役割」(2023/02/07) 原正彦((株)mediVR 代表取締役社長/医師)▶ PDF資料 ▶ Youtube動画

質疑応答編-「脳再プログラミング療法で激変する神経内科・脳外科医の役割」

  •  医工連携(産学連携)による事業化の考え方と実際- VRリハビリ機器開発を例として

▶ https://drive.google.com/drive/folders/1rlYOk_Ypgx2UiFOaRao3NjzbRLzso214

▶ https://www.youtube.com/watch?v=lC5lzVFxARA


脳の「再プログラミング」


デジタルと共に「DX」研究会:4月学習会資料イメージ

コンピューターを使った「脳の再プログラミング」という考え方には、長い歴史がある。

 

ティモシー・リアリー(19201022- 1996531日)アメリカの心理学者。集団精神療法の研究で評価され、ハーバード大学で教授となる。ハーバード大学では、シロシビンやLSDといった幻覚剤による人格変容の研究を行った。晩年のリアリーは、コンピュータを使って脳を再プログラミングすることを提唱した。

 

人工知能も仮想現実もコンピューター開発の当初からの夢であり、目標だった。今、その夢が花開こうとしている。